FX(外国為替証拠金取引)において、ポジションを保有し続けることで日々発生する損益の一つに「スワップポイント」があります。スワップポイントは利益(受け取り)になることもあれば、損失(支払い)、すなわち「マイナススワップ」になることもあります。特にマイナススワップは、取引コストとして損益に直接影響を与えるため、その発生理由や仕組みを理解しておくことが重要です。
本稿では、FXでマイナススワップが発生する基本的な仕組みから、その他の要因、取引への影響、そして事前に確認する方法までを網羅的に解説します。
FXのスワップポイントとは?基本を理解しよう
FX取引は、異なる国の通貨を交換する取引です。それぞれの通貨には、その国の中央銀行が定める政策金利が存在します 。FXでポジションを翌日まで持ち越す(ロールオーバーする)場合、実質的に、売却した通貨を借り入れ、購入した通貨を貸し付けている状態と見なされます。
このとき、保有する通貨ペアを構成する2国間の金利差調整分として、日々受け払いされるのがスワップポイントです 。具体的には、購入した通貨の金利を受け取る権利と、売却した通貨の金利を支払う義務から生じる差額がスワップポイントとなります。この金利差に基づいた調整は、異なる金利環境にある通貨を交換・保有するFX取引の構造上、必然的に発生するものです。
スワップポイントは、取引する通貨ペアやポジションの方向(買いか売りか)によって、プラス(受け取り)にもマイナス(支払い)にもなり得ます 。どちらになるかは、主に二つの通貨間の金利の高低関係によって決まります。
なぜマイナススワップが発生するのか?【基本原則】
金利差が支払いの原因:高金利通貨売り/低金利通貨買い
マイナススワップが発生する最も基本的な理由は、取引する2通貨間の金利差にあります。具体的には、「金利が高い通貨を売り、同時に金利が低い通貨を買う」ポジションを保有する場合に、マイナススワップが発生し、支払いが必要となります 。
この状況では、売却(借り入れ)した高金利通貨に対して支払う金利が、購入(貸し付け)した低金利通貨から受け取る金利を上回ります。その差額分を、トレーダーがスワップポイントとして毎日支払うことになるのです 。例えば、トルコリラやメキシコペソのような比較的高金利とされる通貨を売り、日本円のような低金利通貨を買う取引がこれに該当します 。
逆に、「金利が高い通貨を買い、金利が低い通貨を売る」ポジションであれば、通常は金利差を受け取ることができ、プラスのスワップポイントとなります 。この金利差と取引の方向(買い/売り)の関係が、スワップポイントがプラスになるかマイナスになるかを決定づける根本的な原則です。
具体例で見るマイナススワップ
マイナススワップの仕組みを、具体的な例で考えてみましょう。仮に、A国の通貨金利が年5%、B国の通貨金利が年1%だとします。
もしトレーダーが「A国通貨を売り / B国通貨を買う」ポジションを保有した場合、A国通貨の金利(5%)を支払う一方で、B国通貨の金利(1%)を受け取ることになります。この結果、差し引きで年率約4%に相当する金額を日々支払う必要が生じます。これがマイナススワップです 。
反対に、「A国通貨を買い / B国通貨を売る」ポジションであれば、金利差(約4%)を受け取ることができ、プラスのスワップポイントになります。
実際にマイナススワップが発生しやすいケースとしては、以下のような組み合わせが考えられます。
- 高金利通貨売り / 低金利通貨買い: 例として、豪ドル/円(AUD/JPY)の売りポジションなど 。
- 低金利通貨買い / 高金利通貨売り: 例として、ユーロ/米ドル(EUR/USD)の買いポジション(ユーロ金利が米ドル金利より低い場合)。
- 低金利通貨同士の取引: 例として、スイスフラン/円(CHF/JPY)の買いポジション(スイスフラン金利がマイナスまたは円金利より低い場合)。
以下の表は、金利差と取引タイプの関係をまとめたものです。
取引タイプ | 通貨ペア例(高金利/低金利) | 金利差の扱い | スワップポイント |
---|---|---|---|
高金利通貨を買い / 低金利通貨を売り | 例: AUD/JPY | 金利差を受け取る | プラス |
高金利通貨を売り / 低金利通貨を買い | 例: AUD/JPY | 金利差を支払う | マイナス |
低金利通貨を買い / 高金利通貨を売り | 例: EUR/USD | 金利差を支払う | マイナス |
低金利通貨を売り / 高金利通貨を買い | 例: EUR/USD | 金利差を受け取る | プラス |
この表からもわかるように、取引する通貨ペアの金利の高低関係と、どちらの通貨を売買するかがスワップポイントの方向性を決定します。
基本原則以外のマイナススワップ発生要因
金利差の原則以外にも、マイナススワップの発生やその金額に影響を与える要因が存在します。
FX会社による調整金利の影響
個人投資家がFX取引で受け払いするスワップポイントは、必ずしも銀行間の金利差(インターバンク市場の金利差)をそのまま反映したものではありません 。FX会社は、自社のサービス提供コストやリスク、カバー取引(顧客の注文を他の金融機関に取り次ぐ取引)に伴うコストなどを考慮し、スワップポイントに独自の調整を加えるのが一般的です 。
この調整の結果、多くの場合、受け取るプラススワップは理論値よりもやや少なくなり、支払うマイナススワップは理論値よりもやや多くなる傾向があります。この差額(スプレッド)は、FX会社の収益源の一部、あるいはコスト回収の手段となります 。この調整幅はFX会社によって大きく異なるため 、同じ通貨ペアの同じポジションでも、利用する会社によって受け払いするスワップポイントの額が変わってきます。つまり、個人投資家が経験するスワップレートは、マクロ経済的な金利情勢だけでなく、利用するFX会社固有のミクロ経済的な要因にも左右されるのです。
政策金利の変動と金利差の逆転
各国の政策金利は固定されたものではなく、経済状況に応じて中央銀行によって変更されます 。政策金利が変更されると、通貨ペア間の金利差も変動し、縮小、拡大、あるいは逆転することもあります 。
当初はプラスのスワップポイントを受け取れていたポジションでも、金利変動によって金利差が逆転すれば、マイナススワップの支払いが発生するようになる可能性があります 。例えば、買いポジションで保有していた通貨の金利が、売りポジションの通貨の金利よりも低くなってしまった場合などがこれにあたります。
また、スワップポイントは、日々変動する短期金融市場の状況や需給バランス、市場参加者の金利見通しなども反映します 。そのため、公式な政策金利の発表がなくとも、市場の混乱や期待の変化によって、スワップポイントが変動したり、プラスとマイナスが逆転したりすることもあります 。このことは、スワップポイントが常に変動する動的なものであること、そして長期保有には金利変動リスクが伴うことを示唆しています。
買いポジションでもマイナスになるケース
「買いポジションなら必ずスワップポイントがもらえる」という考えは必ずしも正しくありません。特に、歴史的に低金利が続く日本円(JPY)を売って外貨を買う場合でも、マイナススワップが発生するケースがあります 。
基本原則で見た通り、スワップポイントのプラス・マイナスは、購入する通貨(通貨ペアの左側)の金利と、売却する通貨(通貨ペアの右側)の金利の比較で決まります 。もし購入する通貨の金利が、売却する通貨の金利よりも低い場合、たとえ「買い」ポジションであってもスワップポイントはマイナスになります 。
例えば、ユーロ圏の金利が米国の金利よりも低い時期にユーロ/米ドル(EUR/USD)を買う場合や 、スイスフラン(CHF)の金利がマイナス、あるいは日本円の金利(ゼロ近辺)よりも低い場合にスイスフラン/円(CHF/JPY)を買う場合などが該当します 。
さらに、前述したFX会社による調整金利の影響も無視できません 。仮に、購入通貨の金利が売却通貨の金利をわずかに上回っていたとしても、FX会社の調整幅(スプレッド)によって、実際に受け取れるスワップポイントがマイナスになってしまうこともあり得ます。まれなケースではありますが、金利差が極めて小さい場合や短期金融市場の特殊な状況下では、FX会社の調整により、買いポジションと売りポジションの両方でマイナススワップが発生する可能性も指摘されています 。したがって、スワップポイントの符号を判断するには、「買いか売りか」という取引の方向性だけでなく、具体的な通貨ペアの金利差と利用するFX会社の提示するレートを確認することが不可欠です。
マイナススワップが取引損益に与える影響
マイナススワップは、FX取引の損益計算において無視できないコスト要因となります。
日々のコストとしての蓄積
マイナススワップの最大の特徴は、ポジションを保有している限り、毎日発生し続けるコストであるという点です 。一日あたりの支払額は小さく見えても、数週間、数ヶ月とポジションを持ち続けると、その総額は無視できない大きさになります 。
このコストは、為替レートが有利に動こうが不利に動こうが発生し続けるため、実現利益を直接的に減少させ、あるいは損失を拡大させる要因となります 。マイナススワップが発生するポジションでは、為替差益がスプレッド(売買価格差)だけでなく、累積したマイナススワップの合計額をも上回らなければ、トータルでの利益を確保できないことになります。
長期保有戦略への影響と注意点
日々のコストが積み重なるという性質上、マイナススワップは長期保有を前提とした取引戦略に対して特に大きな影響を与えます 。例えば、為替差益を狙って長期間ポジションを保有する場合、マイナススワップはその戦略の魅力を著しく低下させます。
保有期間が長くなるほど、支払うマイナススワップの総額は増加していきます 。そのため、当初見込んでいた為替差益目標を達成したとしても、累積したスワップコストによって最終的な損益がマイナスになる、あるいは期待したほどの利益にならない可能性があります。長期保有を検討する際には、期待される為替差益が、確実に発生し続けるマイナススワップのコストを十分に上回る見込みがあるかを慎重に評価する必要があります 。これは、プラススワップが日々の収益源となり得る戦略とは対照的です 。マイナススワップは、ポジション保有期間そのものがコスト要因となる「タイムディケイ(時間的価値の減衰)」のような効果をもたらします。
ロスカットリスクとの関連
マイナススワップの支払いは、取引口座の有効証拠金(純資産)を日々減少させます。為替レートの不利な変動による評価損に加えて、マイナススワップによるコストが蓄積すると、証拠金維持率(必要証拠金に対する有効証拠金の割合)が低下します。
この証拠金維持率がFX会社の定める水準を下回ると、さらなる損失拡大を防ぐために保有ポジションが強制的に決済される「ロスカット」が執行される可能性があります 。特に、評価損を抱えたポジションを決済せずに長期間保有し続ける、いわゆる「塩漬け」の状態は、マイナススワップが発生している場合に極めて危険です 。為替レートの不利な動きと日々のスワップコストの両方によって損失が拡大し、ロスカット水準に急速に近づくためです。
ロスカット制度は投資家保護の仕組みですが、相場の急激な変動時には、預け入れた証拠金以上の損失が発生する可能性もゼロではない点には留意が必要です 。マイナススワップは、このように口座の耐久力を徐々に蝕み、ロスカットのリスクを高める要因として作用します。
取引前に確認!スワップポイントの調べ方
マイナススワップによる意図せぬコスト負担を避けるためには、取引を開始する前に、対象となる通貨ペアのスワップポイントを確認することが極めて重要です 。
スワップポイントは、通常、利用しているFX会社の取引プラットフォーム上で確認できます。具体的には、以下のような箇所に表示されていることが多いです。
- 取引レートが表示される画面(レートパネル、気配値表示など)
- 通貨ペアごとの詳細情報(取引条件、証拠金情報など)
- スワップポイント専用のカレンダーや一覧表
確認する際には、買いポジション(Long)と売りポジション(Short)の両方のスワップポイントをチェックすることが大切です。前述の通り、FX会社の調整により、受け取り(プラス)と支払い(マイナス)の額が非対称になっていることが一般的だからです 。
また、スワップポイントは固定ではなく、市場金利の動向やFX会社の判断によって日々変動する可能性があります 。そのため、特に中長期でポジションを保有する場合は、定期的にスワップポイントを確認し、状況の変化を把握しておくことが推奨されます 。スワップポイントは通常、1万通貨や10万通貨といった取引単位あたり、1日あたりの金額で表示されます。
スワップポイントの確認は、スプレッドやチャート分析と同様に、取引判断を行う上での基本的なチェック項目と位置づけるべきです。これを怠ることは、取引に伴う既知のコスト要因を無視することに他なりません。
まとめ:マイナススワップを理解して賢く取引
FX取引におけるマイナススワップは、主に「高金利通貨を売り、低金利通貨を買う」場合に発生する金利差の支払いですが 、それ以外にもFX会社による調整金利 、政策金利の変動による金利差の逆転 、短期金融市場の状況 など、複数の要因が絡み合って発生・変動します。場合によっては、買いポジションであってもマイナススワップが発生することもあります 。
マイナススワップは日々のコストとして蓄積し 、特に長期保有戦略においては損益を圧迫する要因となり 、ロスカットのリスクを高めることにも繋がります 。
最も重要な対策は、取引前に必ずスワップポイントを確認する習慣をつけることです 。利用するFX会社のプラットフォームで、取引したい通貨ペアの買いと売りのスワップポイントを確認し、そのコストを認識した上で取引判断を行う必要があります。
マイナススワップの発生を完全に避けることが常に可能、あるいは最善とは限りませんが(例えばヘッジ目的の取引など)、その仕組みと影響を正しく理解し、コストとして認識・管理することで、より賢明でリスクを抑えた取引判断が可能になります。通貨ペアの分散 やレバレッジ管理 といったリスク管理策と併せて、スワップポイントへの意識を高めることが、FX取引において重要と言えるでしょう。 レポートに使用されているソース