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FXの平均負け額は?損失の実態と対策

FX(外国為替証拠金取引)に興味を持ったとき、「みんな、どれくらい負けているんだろう?」「平均的な負け額はいくらくらい?」と気になるのは自然なことです。大きな損失を避けたい、リスクを把握したいという気持ちの表れでしょう。

しかし、残念ながら「FXの平均負け額は〇〇円です」と一概に示すことは非常に難しいのです。なぜなら、FXの損益は個々のトレーダーの状況によって大きく異なるからです。

この記事では、「平均負け額」という数字だけでは見えてこないFXの損失の実態を、公的なデータや調査結果を交えながら解説します。さらに、大きな損失につながりやすい原因と、それを避けるための具体的な方法についても掘り下げていきます。FXのリスクを正しく理解し、賢く付き合っていくための一助となれば幸いです。

FXの「平均負け額」はなぜ分かりにくいのか

FXの「平均負け額」を一つのはっきりした数字で示すのが難しいのには、明確な理由があります。それは、トレーダー一人ひとりの取引環境やスタイルが千差万別であり、それらが損益に直接影響を与えるためです。「平均」という数字は、これらの個別の事情をすべてならしてしまうため、実態を表しにくく、時には誤解を生むことさえあります。

具体的に、どのような要因が損益の個人差を生むのでしょうか。

  • 投資元本(証拠金の額): 当然ながら、取引に投じる資金が大きければ、潜在的な利益も損失も大きくなる傾向があります。10万円で取引する人と1000万円で取引する人では、同じ値動きでも損失額は全く異なります。
  • レバレッジ設定: レバレッジは少ない資金で大きな取引を可能にする仕組みですが、高く設定するほどリスクも増大します 。同じ1万円の損失でも、レバレッジが高ければ、元本に対する損失割合は大きくなります。  
  • 取引スタイル: 数秒から数分で取引を完結させるスキャルピング、1日のうちに決済するデイトレード、数日から数週間ポジションを保有するスイングトレードなど、取引スタイルによって狙う値幅やリスクの取り方が異なります 。  
  • 経験年数: FXの経験が長いトレーダーは、相場分析やリスク管理のスキルが高い傾向があります。金融先物取引業協会の調査によると、実際に取引している投資家の平均的な経験年数は比較的長いというデータもあります 。経験の差は、損失への対処能力にも影響します。  
  • リスク許容度: どれくらいの損失までなら受け入れられるか、という個人の考え方も損益に関わります 。リスク許容度が高い人は大きなリターンを狙ってリスクを取るかもしれませんが、その分、大きな損失を被る可能性も高まります。  
  • 相場状況: 市場の変動性(ボラティリティ)が高い時期と低い時期では、同じ取引戦略でも結果は変わってきます。

このように、多くの要因が複雑に絡み合って個々の損益が決まるため、「平均負け額」という一つの数字に固執するのはあまり意味がありません。大切なのは、平均値ではなく、どのような人が、なぜ損失を出しているのか、そして自分はどうすれば損失をコントロールできるのかを理解することです。

FXトレーダーの損益実態 データから見る現実

「平均」が分かりにくいとはいえ、FXトレーダー全体の損益に関するデータが全くないわけではありません。金融先物取引業協会(FFAJ)やFX会社が行っている調査から、損益の実態を探るヒントが得られます。

いくつかの調査結果を見てみましょう。

  • 利益を出している人と損失を出している人の割合:
    • あるFX会社の顧客データに基づく調査では、特定の月において、実現損益がプラス(利益)だったトレーダーの割合が約55%から60%程度だったという結果が報告されています 。  
    • 一方で、2018年に金融先物取引業協会が実施した調査では、前年の損益について、「利益額が20万円未満」と「損失額が20万円未満(0円含む)」を合わせた層が全体の64.0%を占めていました 。これは、多くのトレーダーの年間損益が比較的小幅な範囲に収まっていることを示唆しています。  
    • また、別の調査分析では、年間の利益がゼロまたはマイナスだった人の割合は約4割(39.7%)という数字も出ています 。  
    • さらに別のFX会社のデータ分析では、調査対象月において資産が増加した口座は約41%だったという結果もあります 。  

これらのデータを見ると、調査時期や対象、算出方法によって割合は変動しますが、「FXトレーダーの○割が負けている」といった単純な話ではなく、利益を出している人も損失を出している人も一定数存在し、その割合は時期によっても変わることが分かります。

  • 損益額の分布: 金融先物取引業協会の2018年の調査は、損益額の分布についても示唆を与えています。前述の通り、年間損益が「-20万円未満から+20万円未満」の範囲に収まる人が64.0%と過半数を占めています 。これは、多くのトレーダーにとって、極端に大きな利益や損失は稀であり、比較的小さな損益変動が一般的であることを示しています。  

表:FXトレーダーの年間損益分布(2018年 FFAJ調査より)

年間損益額割合
利益額 100万円以上7.5%
利益額 50万円以上~100万円未満7.1%
利益額 20万円以上~50万円未満10.1%
利益額 ~20万円未満35.6%
0円 または 損失額 ~-20万円未満28.4%
損失額 -20万円以上~-50万円未満5.9%
損失額 -50万円以上~-100万円未満2.2%
損失額 -100万円以上3.2%

出典:金融先物取引業協会「外国為替証拠金取引の取引顧客における金融リテラシーに関する実態調査~調査結果報告書~」(2018年9月)P.3 のデータを基に作成  

  • 取引経験と継続: 一部では「FXトレーダーの9割は数年で退場する」といった噂も聞かれますが 、これを裏付ける信頼性の高い公式データは乏しいのが現状です。むしろ、FX会社の調査では、実際に取引を行っているアクティブトレーダーの平均的な口座開設後の期間(取引経験に相当)は9年を超えるなど、比較的長い傾向も見られます 。これは、市場から退場していく人がいる一方で、長期間取引を継続している人も少なくないことを示唆しています。もしかすると、短期間でやめてしまう層と、経験を積んで生き残る層に分かれるのかもしれません。  

これらのデータから言えることは、FX取引は決して簡単な世界ではなく、損失を出す可能性は誰にでもあるということです。しかし同時に、一定数のトレーダーは利益を上げており、損失額も多くの場合は比較的小幅に収まっている実態も見えてきます。「平均負け額」を気にするよりも、こうした損益分布の現実と、なぜ損失が発生するのか、どうすればそれを管理できるのかを理解することが重要です。

FXで大きな損失を出してしまう主な原因

データからFXの損益実態が見えてきましたが、なぜ一部のトレーダーは大きな損失を出してしまうのでしょうか。その原因を知ることは、同じ失敗を避けるための第一歩です。主な原因は、いくつかの要素が複合的に絡み合っている場合がほとんどです。

  • 原因1 知識・経験不足: FXの基本的な仕組み、専門用語、注文方法などを理解しないまま取引を始めてしまうケースです 。また、相場分析の手法(テクニカル分析やファンダメンタルズ分析)を知らなかったり、レバレッジのリスクを正しく理解していなかったりすることも、損失につながります 。知識不足は、不適切な判断やリスクの高い取引を招く土壌となります。  
  • 原因2 感情的な取引: 人間の心理は、投資判断に大きな影響を与えます。特に「損失を避けたい」という感情は強力です。プロスペクト理論によれば、人は利益を得る喜びよりも損失を被る苦痛を強く感じる傾向があります 。このため、含み損が出ているポジションを「いつか戻るはず」と期待して決済できず、損失を拡大させてしまうのです(損失回避性)。また、損失を取り返そうと焦って無謀な取引を繰り返す「リベンジトレード」も、さらなる損失を招く典型的なパターンです 。恐怖、欲、焦りといった感情に流された取引は、計画性を失わせ、大きな失敗につながりやすくなります 。  
  • 原因3 不適切なリスク管理: リスク管理の甘さが、致命的な損失を招くことは少なくありません。
    • 損切りできない: 金融先物取引業協会の調査で、損失を出した原因のトップ(56.5%)に挙げられているのが「損切りができなかったから」です 。これは感情的な要因(プロスペクト理論)に加え、損切りルールを決めていない、あるいは決めていても守れないことが原因です 。  
    • ハイレバレッジ: 過剰なレバレッジは、少しの値動きでも大きな損失を生み出す可能性があります 。相場が予想と反対に動いた場合、あっという間に証拠金を失い、強制ロスカット(証拠金維持率が一定水準を下回ると強制的にポジションが決済される仕組み)に至るリスクが高まります 。  
    • 不適切なポジションサイズ: 口座資金に対して大きすぎるポジションを持つと、わずかな価格変動でも口座全体に与える影響が甚大になります 。適切なポジションサイズの計算方法を知らない、または無視することが原因です。  
  • 原因4 取引計画の欠如と規律違反: 明確な戦略やルールなしに、その場の雰囲気や勘だけで取引を行うことも大きな損失の原因です 。また、「常にポジションを持っていないと落ち着かない」という状態(ポジポジ病)に陥ると、根拠の薄い取引が増え、損失を積み重ねやすくなります 。さらに、取引結果を記録・分析せず、失敗から学ばないことも、同じ過ちを繰り返す原因となります 。  

これらの原因は独立しているわけではなく、相互に関連し合っています。例えば、知識不足が感情的な判断を招き、それが損切りできないというリスク管理の失敗につながる、といった具合です。大きな損失は、単一の原因ではなく、これらの要素が複合的に作用した結果として発生することが多いのです。

FXの損失を抑えるための具体的な方法

大きな損失の原因が分かれば、それを避けるための対策も見えてきます。FXで損失を完全にゼロにすることは不可能ですが、コントロールし、致命的な失敗を避けることは可能です。ここでは、そのための具体的な方法をいくつか紹介します。これらは、損失が発生してから慌てて行うものではなく、取引を始める前、そして取引中にも常に意識すべき予防策です。

  • 方法1 継続的な学習と分析:
    • 基礎知識の習得: まずはFXの仕組み、専門用語(レバレッジ、スプレッド、ロスカットなど)、注文方法といった基本をしっかり学びましょう 。  
    • 分析手法の学習: 為替レートの変動を予測するための分析手法には、主に過去の値動きからパターンを読む「テクニカル分析」 と、経済指標や金融政策などから分析する「ファンダメンタルズ分析」 があります。それぞれの特徴を理解し、自分に合った方法を学びましょう。両方を組み合わせる視点も有効です 。  
    • 学び続ける姿勢: 市場は常に変化します。一度学んだら終わりではなく、常に新しい情報を取り入れ、知識をアップデートし続けることが重要です 。  
    • 取引の記録と振り返り: 自分のトレードを記録し、なぜ勝てたのか、なぜ負けたのかを分析する習慣をつけましょう 。取引ノートをつける ことで、自分の弱点や得意なパターンが見えてきます。  
  • 方法2 取引計画の策定と遵守:
    • ルールを明確にする: 取引を始める前に、「どこでエントリー(新規注文)するか」「いくらになったら利益を確定するか」「いくらになったら損切りするか」といったルールを具体的に決めましょう 。  
    • 計画を守る: 一度決めたルールは、感情に流されずに守り抜くことが重要です。その場の思いつきでルールを変えない規律が求められます 。  
  • 方法3 厳格なリスク管理:
    • 損切り注文(ストップロス)の徹底: 全ての取引で、必ず損切り注文を設定しましょう 。これにより、許容できない損失が発生する前に自動的にポジションを決済できます。注文方法としては「逆指値注文」 を活用します。損切りラインの設定方法には、口座資金の一定割合、値動きの幅(ボラティリティ)、チャート上の支持線・抵抗線などを基準にする考え方があります 。  
    • ポジションサイズの管理: 1回の取引でリスクにさらす金額を、口座資金全体の一定割合以下に抑えることが重要です。例えば「2%ルール」は、1回の取引での損失額を口座資金の2%以内に収めるという考え方です 。具体的な取引数量は、「取引数量 = (投資資金 × 許容損失率) ÷ 損切り幅(pipsや円)」で計算できます 。これにより、負けが続いても資金が急激に減るのを防ぎます。  
    • レバレッジの抑制: 特に初心者は、最大レバレッジを使うのではなく、低いレバレッジ(例えば3倍以下など )から始めるのが賢明です 。これにより、失敗した場合の損失を限定的にできます。  
  • 方法4 余裕資金での取引:
    • FX取引に使うお金は、食費や家賃、学費など、生活に必要なお金とは別に用意した「余裕資金」だけにしましょう 。「このお金がなくなったら困る」という状況で取引すると、プレッシャーから冷静な判断ができなくなります 。  
  • 方法5 感情のコントロール:
    • 自分の感情を認識する: 取引中に恐怖や欲、焦りなどを感じていないか、客観的に自分を見つめることが大切です 。  
    • 計画への集中: 感情に流されそうになったら、事前に立てた取引計画に立ち返り、ルールに従うことを意識しましょう 。  
    • 休息を取る: ストレスを感じたり、感情的になっていると感じたら、一度取引から離れて休憩することも有効です 。  
    • 損失の受容: FX取引において損失は避けられない一部であると受け入れ、一回の勝ち負けに一喜一憂せず、長期的な視点でトータルの利益を目指す考え方が重要です 。  

これらの方法は、一つだけを行えば良いというものではありません。継続的な学習によって分析力を高め、それに基づいて計画を立て、厳格なリスク管理と規律をもって実行し、余裕資金で冷静に取引する。これらが組み合わさることで、初めて効果的な損失コントロールが可能になります。

まとめ FXで大失敗しないために

FXの「平均負け額」は、個々のトレーダーの状況によって大きく異なるため、一概に示すことは困難です。しかし、調査データからは、損失を出すトレーダーがいる一方で利益を出すトレーダーも一定数存在し、多くの人の損益は比較的小幅な範囲に収まっている実態が見えてきます 。  

重要なのは、「平均」に惑わされることなく、大きな損失が発生する原因を理解し、それを避けるための対策を講じることです。大きな失敗は、知識不足、感情的な取引、不適切なリスク管理(特に損切りできないこと、ハイレバレッジ、大きすぎるポジションサイズ)、そして取引計画の欠如や規律違反といった要因が複合的に絡み合って起こることが多いです 。  

これらの失敗を避けるためには、

  • 継続的に学び、取引を分析すること
  • 明確な取引計画を立て、それを遵守すること
  • 損切り注文の活用、適切なポジションサイズ、低レバレッジといった厳格なリスク管理を徹底すること
  • 生活に影響のない余裕資金で取引すること
  • 感情をコントロールし、規律を守ること

が不可欠です。

FXで成功するということは、一度も負けないことではありません。むしろ、損失を小さく抑え(損小)、利益を大きく伸ばす(利大)ことを繰り返し、長期的にトータルで利益を積み上げていくことです 。そのためには、地道な学習と経験、そして何よりも自己規律が求められます 。焦らず、現実的な目標を持ち、着実にステップアップしていく姿勢が、FXで大失敗しないための鍵となるでしょう。

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