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FXで9割負ける説は本当?理由と対策を解説

FXで9割が負けるという話を聞いたことがありますか

FX(外国為替証拠金取引)の世界に足を踏み入れようとしたり、情報収集を始めたりすると、「FX参加者の9割は負ける」「ほとんどが退場していく」といった話を耳にすることがあるかもしれません 。これは非常に広く知られている言説であり、FXのリスクについて調べる中で、多くの方が一度は目にする言葉でしょう。  

この言葉のインパクトは強く、FX取引を始める前から大きな不安を感じさせたり、逆に「自分なら大丈夫」という根拠のない自信を抱かせたりすることもあります。このように、広く浸透している噂そのものが、参加者の心理に影響を与え、取引への向き合い方を左右する要因となり得ます。

この記事では、この「9割が負ける」という噂の真偽を掘り下げ、その根拠となるデータはあるのかを探ります。さらに、なぜ多くのトレーダーがFXで損失を経験するのか、その具体的な理由を分析し、損失を回避し、より健全にFXと向き合うための対策について、専門的な知見やデータを基に解説していきます。

その噂は本当なのか データの信憑性

では、「FXトレーダーの9割が負ける」という話は、果たして事実なのでしょうか。結論から言えば、この「9割」という具体的な数字を裏付ける、信頼性の高い公式な統計データは存在しないのが現状です 。これはあくまで広く流布している「噂」の域を出ないものと考えるのが妥当でしょう。  

実際に、一般社団法人金融先物取引業協会が実施した調査では、2017年にFX取引で利益を出した投資家は全体の60.3%だったという報告もあります 。この数字だけを見ると、「むしろ6割が勝っているのでは?」と思われるかもしれません。  

しかし、この種の調査結果を見る際には注意が必要です。調査対象者が「現在取引者を優先して抽出」されている場合、損失を出して短期間で取引をやめてしまった投資家が含まれていない可能性があるためです 。これは「生存者バイアス」と呼ばれ、成功している(市場に残り続けている)人々のデータだけが偏って集計され、実態よりも良い結果に見えてしまう現象です。  

したがって、「9割」という数字の正確性に固執するよりも、「FX取引で多くの参加者が困難に直面し、損失を経験している」という事実そのものに目を向けることが重要です。この噂が根強く残っているのは、具体的な数字はともかく、FX取引には相応の難しさがあり、多くの人が実際に苦労しているという現実を反映しているからだと考えられます。重要なのは、なぜそのような状況が生まれるのか、その背景にある要因を理解することです。

なぜ多くのトレーダーは損失を出してしまうのか

正確な割合は不明だとしても、FXで多くのトレーダーが損失を出してしまうのはなぜでしょうか。その原因は一つではなく、複数の要因が絡み合っています。主な要因としては、取引計画の欠如、人間の心理的な罠、そしてリスク管理の誤解などが挙げられます。

驚くかもしれませんが、熟練したプロのトレーダーでさえ、常に勝ち続けることは不可能です 。プロでも勝率は3割から6割程度、時にはそれ以下になることもあります 。重要なのは、負けを経験すること自体ではなく、損失をどのように管理し、トータルで利益を残せるかという点です。  

多くの初心者が陥りがちなのは、これらの要因が相互に影響し合い、負のスパイラルを生み出してしまうことです。例えば、しっかりとした計画がないために、予期せぬ相場の動きに対して感情的に反応してしまい、その結果、事前に定めたリスク管理のルールを破ってしまう、といった具合です。これから、それぞれの要因について詳しく見ていきましょう。

計画性なく感覚で取引していませんか

FXで損失を出す大きな理由の一つに、明確な取引計画を持たずに、その場の感覚や直感に頼って取引を行ってしまうことが挙げられます 。短期的な為替の動きを合理的に予測することは極めて困難であり 、一貫した根拠のない取引は、長期的に安定した利益には繋がりません。  

計画性がない取引とは、具体的には以下のような状態を指します。

  • どのような条件が揃ったらエントリー(新規注文)するのかが明確でない。
  • 利益を確定する目標値や、損失を限定する損切りポイントを決めていない。
  • 毎回のエントリーで、どれくらいの取引量(ロット数)にするかの基準がない。
  • どの通貨ペアを、どの時間軸で分析するかが定まっていない。
  • 過去の取引記録をつけず、成功や失敗の要因を分析・改善していない。

このような状態では、再現性のある取引を行うことができません。FXで継続的に利益を上げるためには、運任せではなく、検証に基づいた優位性のあるルールに従い、それを淡々と実行し続ける必要があります。そのためには、エントリーから決済までのシナリオを事前に具体的に描き、記録と分析を通じてその戦略を磨き続けるという、地道なプロセスが不可欠なのです 。  

損失を受け入れられない心理

人間の心理的な特性も、FX取引における損失の大きな要因となります。特に「損失回避性」と呼ばれる心理バイアスは、多くのトレーダーを悩ませます。これは、利益を得る喜びよりも、同額の損失を被る苦痛の方が、心理的に大きく感じられる傾向のことです 。  

この心理が働くと、以下のような不合理な行動につながりやすくなります。

  • 含み損の塩漬け: ポジションが損失を抱えると、「もう少し待てば価格が戻るかもしれない」という期待から損切りをためらい、結果的に損失を拡大させてしまう 。  
  • 利益確定の焦り: 少しでも利益が出ると、「この利益を失いたくない」という恐怖心から、早々に利益を確定してしまい、本来得られたはずの大きな利益を逃してしまう 。  

このような行動パターンは、「損大利小」(損失は大きく、利益は小さい)という、典型的な負けパターンを生み出します。恐怖、欲、焦りといった感情は、冷静な判断を妨げ、事前に立てたルールを破らせる強力な力を持っています 。人間の本能的な反応が、トレードにおいては裏目に出ることが多いのです 。  

この心理的な罠に対抗する最も有効な手段の一つが、「損切り(ストップロス)」の徹底です 。しかし、損失を確定させる行為は心理的な苦痛を伴うため、ルールとして定めていても実行できないトレーダーは少なくありません 。ここで重要なのは、損切りを「失敗」や「負け」と捉えるのではなく、「計画的なリスク管理の実行」「次のチャンスのために資金を守る必要経費」と捉え直すことです。プロのトレーダーは、損失を出すこと自体を問題視するのではなく、計画外の大きな損失を出すことを避けるために、ルールに基づいた損切りを機械的に行います 。  

レバレッジとリスク管理の誤解

FXの大きな特徴であるレバレッジは、少ない自己資金(証拠金)で大きな金額の取引を可能にする仕組みです。これは、上手く使えば資金効率を高めることができる一方、使い方を誤ると大きな損失を招く「諸刃の剣」となります 。  

レバレッジを高く設定すると、わずかな価格変動でも損益が大きく増幅されます。例えば、10倍のレバレッジをかけている場合、相場が1%不利な方向に動いただけでも、自己資金に対して10%の損失が発生します。2008年の金融危機時には、相場が急変動し、高いレバレッジをかけていた多くの個人投資家が、短期間で資金の大部分を失う事態となりました 。レバレッジは「借金をして投資する」のと同じ効果を持つことを理解しておく必要があります 。  

問題なのは、レバレッジの仕組みを十分に理解しないまま、自己資金に対して過大なポジションサイズで取引してしまうことです。これに、損切りルールの不徹底が組み合わさると、一度の失敗で再起不能なほどの損失を被るリスクが高まります 。  

適切なリスク管理とは、1回の取引で許容できる損失額を、自己資金の一定割合(例えば1~2%)に事前に限定し、その損失額に基づいてポジションサイズを計算することです 。レバレッジの高さ自体が問題なのではなく、レバレッジをかけた結果として、1回の取引で負うリスクが自己資金に対して大きくなりすぎることが問題なのです。  

さらに、高いレバレッジは、損益の変動幅を大きくするため、トレーダーの心理的なプレッシャーを高める効果もあります。大きな含み損益を目の当たりにすると、恐怖や欲といった感情が増幅され、冷静な判断がより一層難しくなり、計画から逸脱した行動を取りやすくなります。このように、レバレッジは財務的なリスクだけでなく、心理的なリスクも増大させる要因となるのです。

プロは勝率よりも大切にしていること

では、損失を避け、FXで成功するためにはどうすればよいのでしょうか。ここで、プロのトレーダーが重視している考え方を知ることが役立ちます。多くの人が「勝率」を気にしますが、実はプロの世界では、必ずしも勝率の高さが最重要視されるわけではありません 。  

例えば、あるプロディーラーは、自身のトレードの勝率は2割程度だと語っています。つまり、取引の8割は損切りで終わるということです。それでもトータルで大きな利益を上げているのは、勝った2割のトレードで、負けた8割の損失を補って余りあるほどの大きな利益を得ているからです 。  

これは、「リスクリワードレシオ」(1回の取引における利益と損失の比率)の考え方に基づいています。たとえ勝率が低くても、1回あたりの平均利益が平均損失を大きく上回っていれば、トータルで利益を残すことが可能です 。  

つまり、成功の鍵は、「いかに多く勝つか」よりも、「負けるときにいかに損失を小さく抑え、勝つときにいかに利益を大きく伸ばすか」にあると言えます 。そのためには、厳格な損切りによる損失管理と、利益を伸ばすための戦略的な利食いが不可欠なのです。この非対称的な損益構造を理解し、戦略に取り入れることが、長期的な成功への道筋となります。  

FXで大負けしないための具体的な対策

これまでの分析を踏まえ、FXで大きな損失を避けるための具体的な対策をいくつかご紹介します。これらは、プロのトレーダーも実践している基本的な原則です。

徹底したリスク管理術

  • 余裕資金で取引する: 生活費や将来必要になる資金など、失っては困るお金で取引するのは絶対に避けましょう。
  • 1トレードあたりの損失許容額を決める: 取引を始める前に、1回の取引で最大いくらまで損失を許容できるかを、自己資金の1~2%など、明確なルールとして定めます 。  
  • ポジションサイズを計算する: エントリーポイントと損切りポイントを決めたら、その値幅で損失が許容額に収まるように、取引量(ロット数)を計算します 。感覚でポジションサイズを決めないことが重要です。  
  • 損切り注文を必ず設定する: 全ての取引において、エントリーと同時に、事前に決めた根拠のあるポイントに損切り注文(逆指値注文)を設定する習慣をつけましょう 。相場が不利な方向に動いた場合に、損失を自動的に限定してくれます。  
  • ゼロカットシステムの活用: 海外FX業者の中には、口座残高以上の損失が発生しない「ゼロカットシステム」を採用しているところがあります 。万が一の相場急変時に追証が発生するリスクを避けたい場合は、このような業者を選ぶことも選択肢の一つです。  

再現性のあるトレード計画の立て方

  • 具体的なルールを文書化する: どのような市場環境で、どの通貨ペアを、どの時間足で分析し、どのようなテクニカル指標やパターンが出たらエントリーするのか。利益確定の目標はどこか、損切りはどこに置くのか。これらを具体的に書き出し、明確なトレード計画を作成します 。  
  • 計画を検証する: 作成した計画が実際に有効かどうかを、過去のチャートデータで検証したり、デモトレードで試したりします 。十分な検証なしに実際の資金で取引を始めるのは避けましょう。  
  • トレード記録をつける: 勝ち負けに関わらず、全てのトレードについて、日時、通貨ペア、ロット数、エントリー根拠、決済根拠、損益、その時の感情などを記録します 。定期的に記録を見返し、計画通りに実行できているか、改善点はないかを確認することが、スキルアップに繋がります。  

感情に左右されないルール作り

  • ルールを絶対視する: 作成したトレード計画のルールは、感情に左右されずに厳格に守ることを徹底します 。特に損切りルールは、どんなに苦しくても実行することが重要です。  
  • 感情的な取引を避ける: 大きな損失を出した後に、それを取り返そうと焦って無謀な取引(リベンジトレード)をしたり、逆に大きな利益が出た後に、調子に乗ってリスクを取りすぎたりしないように注意します。感情が高ぶっていると感じたら、一度トレードから離れて冷静になる時間を取りましょう 。  
  • なぜルールを守れないかを分析する: もしルールを破ってしまった場合は、その時の状況や感情を記録し、なぜルールを守れなかったのかを自己分析します 。感情の動きを客観的に把握することが、コントロールへの第一歩です。  

現実的な目標設定と学習

  • 短期的な大儲けを期待しない: FXは短期間で一攫千金を狙えるような簡単なものではありません 。長期的な視点を持ち、コツコツと利益を積み重ねていくことを目指しましょう。  
  • 現実的な目標を設定する: 最初から非現実的な高い目標を設定するのではなく、まずは月数%程度の利益など、達成可能な目標から始めることが大切です 。  
  • 継続的に学習する: テクニカル分析やファンダメンタルズ分析 、市場心理、リスク管理など、学ぶべきことは多くあります。書籍や信頼できる情報源から知識を吸収し、常にスキルアップを心がけましょう。デモトレード は、リスクなしで学習や練習ができる有効なツールです。投資における「やってはいけないこと」を避けるだけでも、成功率は格段に上がります 。  

これらの対策をまとめたものが以下の表です。

よくある失敗 (Mistake)理由 (Reason)対策 (Countermeasure)
感覚的な取引 (Intuitive Trading)再現性がなく感情に左右されやすい明確な取引計画を作成・遵守する
損切りできない (Unable to Cut Losses)損失確定への恐怖・回復期待事前に損切りルールを決め必ず実行する
大きすぎるポジション (Oversized Positions)過度なレバレッジ・リスク軽視許容損失額からロット数を計算する
感情的な判断 (Emotional Decisions)恐怖・欲・焦りによる計画逸脱ルールを絶対視し感情を排す努力をする
短期で大儲け狙い (Aiming for Quick Riches)非現実的な期待・ハイリスク志向長期的視点で現実的な目標設定・学習継続をする

FXとの健全な向き合い方

「FXトレーダーの9割が負ける」という噂は、その数字の正確性はともかくとして、FX取引に内在するリスクと難しさを象徴しています。多くのトレーダーが損失を経験する背景には、計画性の欠如、損失を避けたいという人間の自然な心理、そしてレバレッジとリスク管理に対する誤解が存在します。

しかし、これらの要因を理解し、適切な対策を講じることで、大きな損失を避け、安定した利益を目指すことは決して不可能ではありません。重要なのは、一攫千金を夢見るのではなく、FXをリスク管理が不可欠な確率的なゲームとして捉え、規律、学習、そして忍耐力を持って臨むことです 。  

徹底したリスク管理、検証に基づいた再現性のある取引計画、そして感情に左右されないルールの遵守。これらを地道に実践し続けることが、FXで成功するための王道と言えるでしょう。なぜ多くの人が失敗するのかを知ることは、その失敗を回避するための第一歩となります。この記事が、FXとの健全な向き合い方を見つける一助となれば幸いです。

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